飲食業における承継の課題と解決策を、法人経営者向けに網羅的に解説していきます。後継者不足、親族内承継・従業員承継・M&Aの注意点、飲食業特有のリスク、税務・財務面の実務ポイントまで詳しく紹介しますので、是非ご参考にしてください。
この記事を読んでいただければ、早期に取り組むべき対策がわかっていただけます。
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この記事の目次
飲食業における事業承継が注目される背景

飲食業の事業承継は「いつかの課題」ではなく、今期・来期の経営リスクとして顕在化しています。特に年商1億円以上・従業員20名以上の法人では、承継の遅れが人材・資金繰り・多店舗運営に波及しやすい構造となっています。
承継は“相続の話”に見えがちですが、実態は経営戦略(ガバナンスと成長)のテーマです。背景を押さえるほど、対策の優先順位が明確になりますので、その点を覚えておいてください。
飲食業界全体で進む経営者の高齢化
飲食業界では経営者の高齢化が進み、引退期の集中が起きています。統計でも、経営者のうち60歳以上が過半数(約55%)とされ、事業承継は構造課題となっています。
飲食法人は、経営者が「現場の要(料理長・統括)」も担う例が多く、交代が遅れるほど現場の歪みが経営に直結します。病気・家族事情などで突然引退となれば、承継計画がない会社ほど混乱します。
なぜ飲食業は“引退のタイミング”が読みにくいのか
飲食は、繁忙期・人員不足・長時間労働が重なりやすい業態です。経営者本人が「辞め時を決める余白」を持てず、結果として判断が先送りされがちです。
また、店舗契約更新・設備更新・出店/撤退など、意思決定イベントが多い分、承継を絡めた設計がないと場当たり的な投資が増えます。“引退の準備”が、いつの間にか“次の投資判断”を難しくしています。
年商1億円超の法人で高齢化がリスク化しやすい理由
一定規模以上では、現場と本部機能が分化しきらず、経営者が統括し続けるケースがあります。この状態で交代が起きると、意思決定の空白が一気に広がります。
さらに、金融機関・リース・家賃・仕入先与信など外部関係者が増え、信用補完が必要になります。だからこそ、「交代できる経営体制」が会社の信用そのものになってきます。
後継者不在率が高い飲食業の現状
飲食業は後継者不足が深刻で、承継方法が「親族」に限定されなくなっています。実務では、親族・従業員・第三者(M&A)の比較検討が標準になりつつあります。
後継者不在は“人がいない”だけでなく、「継げる状態になっていない」ことが原因です。数字・仕組み・権限が整っていない会社ほど、候補者がいても承継が進みません。
親族が継がない(継げない)典型パターン
親族がいても「安定した道を選ばせたい」「飲食の厳しさを知っている」など心理的要因で承継が進まないことがあります。加えて、会社が属人化していると、継ぐ側の負担が重く見えてしまいます。
親族内承継は“家の話”になりやすく、議論が先延ばしされがちです。結果として、相続発生時に株式・不動産・借入が絡み、選択肢が狭まってしまいます。
従業員はいるのに承継候補になりにくい理由
従業員承継(内部昇格)は、文化・味・顧客理解がある点が強みです。一方で「資金がない」「個人保証が怖い」「経営者になる自信がない」という壁が立ちはだかります。
ここを放置すると、優秀な店長ほど独立するか転職し、会社は人材を失います。承継候補を“育てる制度”がない企業ほど、候補が消えていきます。
承継に失敗した場合の経営リスク
承継の失敗は、単なる世代交代の失敗ではありません。飲食法人では、売上・人材・信用が同時に毀損し、短期間で資金繰りに波及します。
特に、承継準備がないまま廃業すると、店の価値(売却益)・雇用・顧客との関係が失われます。だからこそ、廃業は“最後の選択肢”として扱うべきです。
人材・顧客・取引先の「連鎖崩れ」
承継不安は、まず現場の不安につながります。店長・料理長が離職し、品質が落ち、口コミ・常連離れが起きます。
次に、取引先が与信を絞り、金融機関が資金支援に慎重になります。この連鎖を止めるには、計画と体制の可視化が必要です。
黒字でも“承継できず廃業”が起きる理由
黒字でも、経営者が抜けた後の再現性がないと、後継者は手を挙げません。買い手(第三者)も、属人化が強いと評価を下げます。
つまり、黒字かどうかよりも、「誰がやっても回る仕組み」があるかが重要です。この整備が、企業価値の防衛策になります。
飲食業における事業承継の主な課題

飲食業の承継課題は、承継方法ごとに異なります。ただし共通しているのは、財務(数字)と運営(仕組み)と法務(権利関係)の三点セットで詰まることです。
ここを分解して対策すると、承継の難易度は下がります。逆に、税務だけ・人だけで考えると、後で必ず歪みが出ます。
親族内承継が進まない理由
親族内承継は、コスト面・文化面でメリットがある一方、最も“感情”が絡みます。話し合いが遅れるほど、相続・株式・不動産の問題が複雑化します。
親族内承継の肝は、「後継者教育」×「株式・財産設計」×「家族合意」の同時進行です。1つでも欠けると、承継後に紛争化するケースが多いので、注意が必要となってきます。
経営と現場スキルの属人化
飲食法人は、経営者が「味・人・数字」を握っているケースが多いです。この状態では、後継者が経営を“再現”できず、承継後に失速します。
対策は、マニュアル化・権限移譲・KPI運用(指標管理)です。属人化を崩すこと自体が、承継準備になります。
家族間トラブル・相続問題
相続は、法定相続分という“ルール”があるため、感情と制度が衝突します。株式や不動産が事業の中核資産だと、分割が難しくなります。
早期に「誰が経営を継ぐか」「他の相続人へどう配慮するか」を設計すると、揉めにくくなります。遺言・株式移転・財産組み替えは、承継の実務の中心です。
従業員承継(内部昇格)の課題
従業員承継は、味と文化の継承に強い方法。しかし最大の障害は、資金調達とリスク引継ぎです。従業員側から見ると、株式取得・個人保証・借入引継ぎは重い意思決定です。会社側は、この“重さ”を軽くする設計が必要です。
資金調達力の不足
従業員が株式を買い取るには、資金が必要です。金融機関は「後継者個人の信用」だけでなく、承継後の事業計画の妥当性を見ます。
ここで効くのが、月次決算の整備と、店舗別損益の説明可能性です。数字で語れる会社は、承継資金の調達の可能性が上がります。
経営者マインド・ガバナンス(統治)の不足
現場が強い人ほど、経営判断(投資・撤退・採用)に慣れていません。その結果、承継後に採用が崩れ、数字が崩れ、現場が疲弊します。
必要なのは、承継前からの段階的な権限移譲です。たとえば「採用→仕入→販促→投資」の順に意思決定を渡すと、失敗確率が下がります。
第三者承継(M&A)の課題
M&Aは、後継者不足を解決し、雇用・ブランドを残す有力手段です。ただし、売れる会社と売れない会社の差は明確で、準備がないと評価は伸びません。
飲食業のM&Aでは、再現性・人材・数値の透明性が評価の中心になります。“勢いの売上”より、“仕組みの利益”が重視されます。
企業価値算定が難しい業態特性
企業価値では、EV/EBITDA(企業価値/EBITDA倍率)などの考え方が使われます。EBITDA(利払い前・税引前・償却前利益)は、資本構成の違いをならして収益力を見る指標です。
飲食は、原価・人件費・家賃で利益がぶれやすく、単年の数字だけでは評価しにくいです。複数年の推移と、改善余地の説明が価値を左右します。
買い手が敬遠するポイント(原価・人件費・契約・人材)
買い手は「引継いだ後に回るか」を見ます。特に、原価率や人件費率が同業平均から乖離していると、リスクとしてディスカウントされます。
また、賃貸借契約が承継で引き継げない、許認可が不明確、主要人材が辞めそう、なども致命傷です。この手の論点は、M&Aの前に潰しておくほど条件が良くなります。
飲食業特有の事業承継リスク

飲食業は「商品=体験」であり、承継の難易度が上がります。数字だけ整えても、味・接客・文化が崩れると売上は落ちます。
だからこそ、承継では見えない資産(レシピ、接客、チーム文化)の承継設計が必要です。ここが弱いと、買い手も後継者も不安になります。
人材流出リスク
承継期は、社内が不安定になりやすい時期です。情報が出ないと憶測が広がり、キーパーソンほど早く動きます。特に年商1億円超の法人では、店長・SV・料理長の離職が連鎖すると、多店舗が一気に崩れます。「承継計画の共有範囲」と「報酬・評価の再設計」が重要です。
店長・料理長が抜けたときのダメージ試算
たとえば月商800万円の店舗で、店長交代の混乱で売上が10%落ちると月80万円の減収です。原価・人件費が固定寄りなら、利益への影響はさらに大きくなります。
複数店舗なら影響は掛け算で広がります。だからこそ、承継計画は“人材リスク管理”として扱うべきです。
承継期に人材を守る実務(評価・権限・情報)
承継の情報は「出せば良い」ではなく、出し方が重要です。役割・評価・権限の設計を伴わない共有は、不安を増やします。
実務としては、キーパーソンの役割明確化、報酬テーブルの再設計、意思決定ラインの明示が効きます。人が辞めない設計が、そのまま企業価値になります。
ブランド・味・レシピの継承問題
飲食業の承継は、ブランド(店名・評判)と品質(味・接客)の維持が核心です。ここが崩れると、常連が離れ、口コミが落ち、新規獲得コストが上がります。
レシピが“感覚”のままだと、後継者は再現できません。言語化と標準化が、承継の投資対効果が高い領域です。
商標・SNS・口コミ資産の引き継ぎ注意点
ブランドは“権利”と“運用資産”に分かれます。商標(店名)やドメイン、SNSアカウント、口コミ対応の方針は、引継ぎ漏れが多い領域です。
実務では、運用者・権限・二段階認証・管理台帳の整備が必須です。「アカウントの引継ぎ」=「売上導線の引継ぎ」と捉えるべきです。
店舗契約・許認可の引き継ぎ
飲食業は許認可と契約が多く、承継手法によって引継ぎ要否が変わります。ここを見落とすと「承継したのに営業できない」という事故が起こります。
法人の承継では、株式譲渡なら契約は原則継続しやすい一方、事業譲渡では再契約が必要になりがち。スキーム選定(株式譲渡/事業譲渡)が実務を左右します。
賃貸借契約(家主・保証会社)で詰まるケース
賃貸借契約は、名義変更・保証人・用途制限などの条件があります。家主や保証会社の審査で条件が変わると、採算が崩れることもあります。
承継前に、契約条項・承諾条件・更新時の条件を洗い出しておくべきです。交渉余地は「承継の前」にしかないケースが多いです。
営業許可・酒類関連・雇用契約の確認ポイント
飲食店営業許可などの許認可は、自治体ルールや名義の扱いが絡みます。酒類提供がある場合、届出・契約・運用ルールも確認が必要です。
また、雇用契約や就業規則は、承継後の労務トラブルの火種になります。税務だけでなく、労務・法務の観点も含めて棚卸しが重要です。
飲食業における事業承継の具体的な解決策

解決策は、承継手法の前に「会社を承継できる形」に整えることです。つまり、数字・仕組み・権利関係を先に整備し、その上で手法を選びます。
この順番を逆にすると、承継交渉が進まず、条件が悪化します。“準備が整っている会社”は、親族でも従業員でも第三者でも承継が進みます。
早期からの承継計画策定
承継は最低でも5〜10年スパンで設計するのが現実的です。理由は、株式移転・人材育成・利益体質改善には時間がかかるからです。
計画は「いつ誰に何を渡すか」を工程表に落とします。後継者候補の複線化(複数候補を持つ)が、リスク分散になります。
承継ロードマップ(5〜10年)の作り方
ロードマップは、①体制整備 ②数値整備 ③権限移譲 ④法務税務手続の順で組みます。年次で「誰が何を決めるか」を明確化します。
例:3年目までに月次決算定着、5年目までに店長裁量で採用・販促、7年目までに資金調達、など。工程が見えると、社内も金融機関も動きやすくなります。
後継者候補の見極め指標(現場力だけで決めない)
飲食の承継は、現場力だけで決めると失敗しやすいです。必要なのは、数字への関心・人材育成・撤退判断などの“経営耐性”です。
評価指標として、店舗別損益の理解度、粗利改善の実績、離職率の改善などを置くと実務的です。「数字で語れる後継者」が強いです。
数値で見える経営体制の構築
承継を進めるには、外部が理解できる形で経営を説明できる必要があります。その中心が、月次決算と指標管理です。特に飲食では、原価率・人件費率・家賃比率のコントロールが利益の大半を決めます。“見える化”は企業価値の土台になります。
月次決算(毎月の損益確定)を承継の標準にする
月次決算とは、毎月の売上・原価・人件費・利益を締めて、経営判断に使う仕組みです。年1回の決算だけでは、問題の発見が遅れます。
月次で差異が分かれば、改善策を翌月に反映できます。承継時の金融機関説明・M&A説明でも、月次の整備は強い材料になります。
飲食の重要KPI(原価率・人件費率・FL比率・客単価)
KPI(重要業績評価指標)は、何を見れば経営が良くなるかを示す指標です。飲食では、原価率、人件費率、FL比率(Food+Labor)、客単価、回転率が代表です。
たとえば、FL比率を2ポイント下げるだけで、年商2億円なら粗利改善は数百万円〜数千万円規模になり得ます。指標を回す会社ほど承継がスムーズです。
組織化・マニュアル化による脱属人化
属人化は承継の最大の敵。逆に言えば、属人化を崩すだけで、親族内でもM&Aでも承継が進みやすくなります。
マニュアル化は「現場を縛るため」ではなく、品質を守り、教育コストを下げるための投資です。承継=仕組み化プロジェクトと捉えるのが実務的です。
オペレーション標準化(教育コスト削減と品質維持)
標準化は、接客・調理・発注・清掃・クレーム対応までを対象にします。動画・写真・チェックリストを組み合わせると、再現性が上がります。
結果として、店長の負担が減り、離職が減り、現場が安定します。これはそのまま、承継後の安定運営に直結します。
権限分掌(誰が何を決めるか)を設計する
権限分掌とは、意思決定権限を役職ごとに定義することです。「全部オーナー判断」から脱却できないと、後継者が育ちません。
採用・仕入・販促・価格改定・投資判断を、段階的に委譲する設計が有効です。権限移譲が進む会社ほど、承継コストが下がります。
税務・法務を踏まえた承継スキーム設計
承継は「誰に渡すか」だけでなく、「どう渡すか」が結果を決めます。株式の移転方法・タイミングで、贈与税・相続税・所得税の負担が大きく変わります。
また、契約・許認可・雇用など法務論点も同時に動きます。税務と法務を分断すると、後で高くつくのが承継実務です。
株式移転(贈与・相続・売買)で税負担が変わる
株式を「贈与」するのか「相続」するのか「売買」するのかで、課税関係が変わります。特に法人の株式は評価が高くなりやすく、早期の設計が重要です。
何もせずに相続を迎えると、納税資金が足りず、事業に影響が出ることがあります。だからこそ、株価対策”と“納税資金対策”をセットで考えます。
事業承継税制(一定要件で相続税・贈与税の納税猶予)の使いどころ
事業承継税制とは、一定の要件を満たす場合に、後継者が取得した株式に係る相続税・贈与税の納税が猶予(条件により免除)される制度です。適用には計画策定や要件管理が必要で、運用を誤るとリスクもあります。
制度は強力ですが万能ではありません。会社の実態(資産管理性、雇用、配当、役員体制)を踏まえた適否判断が不可欠です。
事業承継手法別のポイント(飲食業向け)

承継手法は、親族内・従業員・第三者(M&A)に大別されます。重要なのは、どれを選ぶかより、どれを選んでも成立する状態を作ることです。
手法は「出口」、準備は「土台」。土台が弱いと、どの出口も詰まります。
親族内承継を成功させるポイント
親族内承継は、文化や理念を引き継ぎやすい一方で、相続・株式・家族感情が絡み、設計の精度が問われます。
成功の共通点は、早期に家族合意の場を作り、後継者教育と財産設計を同時に進めること。言い出しにくいテーマほど、専門家が間に入る価値があります。
後継者には、現場経験だけでなく、数字・人材・投資判断の責任を段階的に渡すことが重要です。また、相続人間の不公平感を残さないよう、分け方・説明・合意を事前に整えることで、承継後の家族紛争リスクを防げます。
従業員承継を進める際の注意点
従業員承継は、現場の継続性が高く、顧客体験を守りやすい手法です。一方で、資金とリスクの設計を誤ると、候補者が辞退するケースも少なくありません。
株式取得資金だけでなく、承継後の運転資金・設備投資まで含めた資金計画が必要です。また、個人保証や借入の整理は、候補者の心理的ハードルを大きく下げます。
従業員承継は「覚悟」に頼るものではなく、引き継げるリスク水準に会社側が整えることが成否を分けます。
第三者承継(M&A)を選択する場合
第三者承継は、後継者不在を解決し、雇用や地域ブランドを残す現実的な手段です。売却条件は、事前の準備でほぼ決まります。
企業価値は、単年の利益ではなく、複数年の安定性と再現性が重視されます。飲食業でも、収益構造が整い「仕組みで稼げる」ほど評価は高まります。
デューデリジェンスでは、財務に加え、契約・労務・人材定着・許認可などが確認されます。開示できないリスクが多いほど、条件は不利になります。
税理士法人が関与することで解決できること
事業承継は、税金対策だけの話ではありません。税務を起点に、財務の見える化・資金調達・承継設計を一体で整えることで、成功確率は大きく高まります。
特に飲食業では、店舗別損益など数字の粒度と、事業の再現性が重要です。税理士法人の役割は、「承継できる状態」を実務で作ることにあります。
承継前は、決算書の信頼性を高め、不要な資産や費用を整理することで、交渉力と企業価値を同時に引き上げます。
事業承継税制は有効な選択肢の一つですが、万能ではありません。株価対策や納税資金準備と組み合わせ、承継後の自由度を残す設計が重要です。
また、承継後1〜3年は経営が不安定になりやすい移行期です。月次管理や資金繰りを伴走し、次の成長につなげるところまで支援することが、税理士法人の本当の価値です。
事業承継を考えている方は、私たちMGS税理士法人まで、ご相談くださいませ。親身になりご対応させていただきます。
