後継者不在は、もはや一部の企業だけの問題ではありません。黒字経営であっても「継ぐ人がいない」という理由だけで廃業を選ばざるを得ない中小企業は年々増えています。しかもこの問題は、直前になって対処しようとしても選択肢が限られ、結果として会社の価値を十分に活かせないまま終わってしまうケースも少なくありません。
しかし、後継者がいない=廃業しかない、というわけではありません。早めに準備を始めることで、事業を未来につなぐ現実的な選択肢は確実に広がります。
本コラムでは、後継者不在による廃業リスクを整理したうえで、今からでも取り組める「10の現実的な対策」をわかりやすく解説します。
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この記事の目次
後継者不在が企業にもたらす具体的なリスク

後継者不在の問題は、「将来の話」「まだ先のこと」と捉えられがちですが、実際には現在の経営にも静かに、しかし確実に影響を及ぼします。後継者が決まっていない状態が続くことで、企業は経営・財務・人材・対外的信用のあらゆる面でリスクを抱えることになります。ここでは、見落とされやすい具体的なリスクを整理します。
経営判断が先送りされ、成長機会を逃す
後継者が決まっていない企業では、設備投資や新規事業、組織改革といった中長期の意思決定が先送りされやすくなります。
「自分の代で大きな投資をしてよいのか」「次の経営者に負担を残すのではないか」といった心理が働き、結果として現状維持に陥りがちです。
この状態が続くと、市場環境の変化に対応できず、競争力は徐々に低下していきます。黒字経営であっても、数年後には「売れる会社」ではなくなってしまい、承継や売却の選択肢そのものが狭まる危険性があります。
社員の不安が高まり、人材流出につながる
後継者不在は、経営者だけでなく社員にも大きな不安を与えます。
「この会社は将来どうなるのか」「雇用は守られるのか」という疑問に対し、明確な方向性が示されない状況が続くと、優秀な人材ほど先に離れていく傾向があります。
特に管理職や若手の中核人材が流出すると、現場の負担は一気に増え、残った社員のモチベーション低下にもつながります。結果として組織力が弱体化し、さらに後継者候補が育たないという悪循環に陥ります。
取引先・金融機関からの信用低下
後継者不在の問題は、社内だけでなく社外にも伝わります。取引先は「長期的な取引が続けられるのか」を重視し、金融機関も「将来の返済能力」や「経営の継続性」を慎重に判断します。
後継者が決まっていない、あるいは承継の方針が不透明な企業は、融資条件が厳しくなったり、新たな取引の話が進みにくくなったりするケースもあります。これは、目に見えにくいものの、経営にじわじわと効いてくるリスクです。
税務・相続面で不利な状況に陥る
後継者不在のまま経営者が高齢化すると、税務・相続の問題が一気に表面化します。自社株の評価が高い状態で相続が発生すると、多額の相続税が課され、結果として会社の資金繰りを圧迫することも少なくありません。
本来であれば、事業承継税制の活用や、自社株評価の見直し、計画的な贈与などにより、税負担を抑えることが可能です。しかし、準備期間が短いと、こうした制度を十分に活用できず、「知らなかった」「間に合わなかった」という事態になりがちです。
「選べるはずだった選択肢」が消えていく
後継者不在の最大のリスクは、「時間の経過とともに選択肢が減っていく」ことです。
元気なうちは、社内承継、第三者承継(M&A)、段階的な引退など、複数の道を検討できます。しかし、体調不良や突発的な出来事が起きると、冷静な判断が難しくなり、結果として廃業という選択肢しか残らないケースもあります。
廃業は必ずしも悪い選択ではありませんが、十分な準備がないまま行うと、従業員や取引先に大きな影響を与え、経営者自身も「もっと早く動いていれば」という後悔を抱えやすくなります。
後継者不在は「今の経営課題」である
後継者問題は、将来の話ではなく、すでに始まっている経営リスクです。
何もしないまま時間が過ぎることで、会社の価値、信用、人材、そして選択肢が少しずつ失われていきます。だからこそ重要なのは、「後継者が決まってから考える」のではなく、「後継者がいない今こそ、準備を始める」ことです。
今からできる4つの対策(実践的)

後継者不在という状況は、すぐに解決できる問題ではありません。しかし、「何も決まっていないから動けない」のではなく、「決まっていないからこそ、今できる準備を進める」ことで、将来の選択肢は大きく広がります。ここでは、後継者が未定の段階でも実行できる、現実的かつ効果の高い4つの対策を紹介します。
対策① 現状を可視化する「承継可能性の棚卸し」
最初に取り組むべきは、感覚ではなく事実に基づいて現状を把握することです。
具体的には、次のような観点で棚卸しを行います。
⚫︎ 経営者が担っている業務内容(意思決定・対外対応・現場管理など)
⚫︎ その業務を代替できる人材の有無
⚫︎ 会社の強み・弱み、収益構造
⚫︎ 自社株の評価額や財務状況
これらを整理することで、「誰も継げない」と思っていた会社でも、実は一部の業務は引き継ぎ可能であることが見えてくるケースは少なくありません。また、第三者承継やM&Aを視野に入れる場合でも、この棚卸しは必須の準備になります。
対策② 社内承継を想定した“育成型”準備
親族に後継者がいない場合でも、社内に将来の経営を担える人材が眠っていることがあります。重要なのは、「いきなり社長にする」前提ではなく、段階的に育てる視点です。
たとえば、
⚫︎ 数年かけて経営数字を理解させる
⚫︎ 取引先との関係構築を任せる
⚫︎ 小さな意思決定から権限移譲する
といったプロセスを踏むことで、本人の覚悟や適性も見極められます。この準備は、結果的に承継に至らなかった場合でも、組織力の底上げという形で会社に残ります。
対策③ 第三者承継(M&A)を「保険」として検討する
「M&Aは最後の手段」と考える経営者は多いですが、後継者不在企業にとっては有効な選択肢の一つです。重要なのは、切羽詰まってから検討するのではなく、余裕のある段階で情報収集を始めることです。
早めに準備を進めることで、「会社の価値を高める改善ができる」「条件面で有利な交渉が可能になる」「廃業以外の現実的な出口が確保できる」といったメリットがあります。結果的にM&Aを選ばなかったとしても、「売れる状態」を目指した経営は、会社の健全性を高めます。
対策④ 税務・財務の事前対策で選択肢を守る
後継者不在の企業ほど、税務・財務面の事前対策が重要になります。特に自社株評価や相続税対策は、時間を味方につけられるかどうかで結果が大きく変わります。
⚫︎ 自社株評価を把握し、必要に応じて見直す
⚫︎ 事業承継税制の適用可能性を検討する
⚫︎ 将来の相続を見据えた資産整理を行う
これらは専門家の関与が不可欠な分野であり、早期に税理士と相談することで「使えるはずだった制度」を逃さずに済みます。
「決めない」ことが最大のリスクにならないために
4つの対策に共通するポイントは、「すぐに後継者を決める必要はないが、何もしないまま時間を過ごさない」という姿勢です。準備を進めることで、社内承継・第三者承継・段階的な引退など、複数の選択肢を同時に持つことができます。
後継者不在の企業が選べる出口戦略

出口戦略① 社内・親族への承継
最もイメージされやすいのが、親族や社内人材への承継です。血縁にこだわらず、社員の中から経営を引き継ぐケースも増えています。
この方法のメリットは、企業文化や取引関係を維持しやすい点です。従業員や取引先にとっても心理的な安心感があり、事業の継続性が高まります。一方で、後継者候補の育成には時間がかかり、経営者が一定期間関与し続ける覚悟も必要です。
また、承継時には自社株の移転や役員構成の見直しなど、税務・法務上の調整が不可欠です。計画性がないまま進めると、税負担が重くなったり、社内トラブルの原因になることもあります。
出口戦略② 第三者承継(M&A)
親族や社内に後継者がいない場合、有力な選択肢となるのが第三者承継、いわゆるM&Aです。最近では中小企業向けのM&A市場も拡大しており、後継者不在を理由に会社を引き継ぐ事例は珍しくありません。
M&Aのメリットは、会社や従業員、取引関係を存続させながら、経営者が引退できる点にあります。条件次第では、創業者利益を確保することも可能です。一方で、相手先選びや条件交渉、財務・税務の整理など、専門的な対応が求められます。
また、「いつでも売れる」と考えて準備を怠ると、希望する条件での承継が難しくなることもあります。早期に検討を始め、会社の価値を高めておくことが成功のカギです。
出口戦略③ 計画的な廃業・清算
すべての企業にとって、承継やM&Aが最適解とは限りません。業界環境や事業特性によっては、計画的な廃業や清算が合理的な選択となる場合もあります。
重要なのは、「突然の廃業」ではなく、「準備された廃業」を行うことです。あらかじめスケジュールを立てることで、従業員への説明や取引先への対応、在庫・設備の整理を円滑に進めることができます。
また、税務面でも事前に対策を講じることで、余計な税負担やトラブルを回避できます。廃業は決して失敗ではなく、経営者としての一つの責任ある判断と言えるでしょう。
出口戦略は「早く決める」ほど有利になる
3つの出口戦略に共通するのは、「早めに方向性を考えるほど選択肢が広がる」という点です。体力や判断力に余裕があるうちであれば、複数の戦略を並行して検討することも可能です。
逆に、判断を先延ばしにすると、選べる道は急速に狭まります。結果として、本来なら避けられたはずの廃業を選ばざるを得ないケースも少なくありません。
税務・経営の視点を交えた出口戦略設計が重要
出口戦略は、単なる「引退方法」ではなく、税務・財務・経営戦略が密接に絡む重要な経営判断です。どの選択肢が自社にとって最適かを見極めるためには、専門家の視点を交えながら整理することが不可欠です。
税理士が最初にやるべきチェック項目![]()
後継者不在の相談を受けた際、税理士が最初に行うべきことは「いきなり承継方法を決める」ことではありません。重要なのは、企業の現状を正確に把握し、どの選択肢が現実的かを見極めるための土台を整えることです。以下は、後継者不在企業に対して税理士が最初に確認すべき代表的なチェック項目です。
① 経営者個人と会社の資産関係の整理
まず確認すべきは、経営者個人と会社の資産・負債の関係です。
✔️ 個人名義と法人名義の資産が混在していないか
✔️ 経営者から会社への貸付金・借入金の有無
✔️ 私的流用やあいまいな資金移動がないか
この整理ができていないと、承継・M&A・廃業いずれを選ぶ場合でも大きな障害になります。特に第三者承継では、資産関係が不透明なだけで交渉が止まるケースもあります。
② 財務状況と収益構造の把握
次に、会社の「今」と「これから」を数字で把握します。
✔️ 直近3〜5期分の決算内容
✔️ 主な収益源と利益率
✔️ 借入金の残高・返済条件
ここで重要なのは、黒字・赤字だけで判断しないことです。安定的に利益が出ている事業なのか、経営者個人の力に依存していないか、といった視点が求められます。
③ 自社株評価と株式の分散状況
後継者不在企業では、自社株の状況確認が極めて重要です。
✔️ 自社株の評価額はいくらか
✔️ 株式は誰がどれだけ保有しているか
✔️ 過去に贈与や譲渡が行われていないか
自社株評価が高いまま放置されていると、相続や承継の場面で大きな税負担が発生します。早期に把握することで、評価引き下げや分散防止といった対策が可能になります。
④ 相続・贈与・事業承継税制の適用可否
制度を「使えるかどうか」を事前に確認することも欠かせません。
✔️ 相続税・贈与税の試算
✔️ 事業承継税制の適用要件への該当性
✔️ 将来的な制度変更リスクへの備え
これらは、直前になって検討しても手遅れになるケースが多い分野です。後継者が未定であっても、準備段階としての検討は十分に意味があります。
⑤ 社内体制・キーマンの把握
税務だけでなく、人的側面の確認も重要です。
✔️ 経営者不在時に業務が回る体制か
✔️ キーマンとなる社員の存在
✔️ 権限・役割分担が明確になっているか
この確認により、社内承継の可能性や、M&A時の引き継ぎリスクが見えてきます。
⑥ 経営者本人の意向と引退後の生活設計
最後に忘れてはならないのが、経営者本人の意向です。
✔️ いつ頃まで経営に関わりたいか
✔️ 引退後の生活資金は足りているか
✔️ 会社に何を残したいのか
これを無視した出口戦略は、どこかで無理が生じます。税理士は数字だけでなく、経営者の想いも含めて整理する役割を担います。
チェックリストは「選択肢を守るための道具」
このチェックリストの目的は、答えをすぐに出すことではありません。現状を把握し、将来の選択肢を狭めないための準備を行うことです。後継者不在の問題は、早く向き合うほど、穏やかで納得感のある出口に近づきます。
後継者不在対策は“経営戦略の一環”

早い段階から現状を整理し、社内承継、第三者承継、計画的な廃業といった複数の選択肢を視野に入れて準備を進めることで、会社の価値と選択肢は守られます。特に税務や財務の対策は時間を味方につけることが重要であり、専門家とともに計画的に進めることが成功のカギとなります。
後継者不在への対応は「いずれ考えること」ではなく、今の経営戦略の一部として向き合うべきテーマです。早めの一歩が、会社と経営者双方にとって納得のいく未来につながります。
後継者不在対策は“経営戦略の一環”
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