事業承継税制とは何か?を専門的かつ実務的に解説。納税猶予の仕組み、特例承継計画の提出期限、2025年改正の緩和ポイントなど、経営者が知っておくべき要点をまとめました。
この記事を読むと、自社が制度の対象かどうか判断でき、今すぐ取るべきアクションが明確になりますので、是非参考にしてください。
contents
この記事の目次
事業承継税制とは【定義・狙い・対象】

事業承継税制は、中小企業のオーナーが後継者へ株式を引き継ぐ際の税負担を猶予または免除する制度です。
国が「中小企業の円滑な世代交代」を目的として整えたもので、非上場株式の贈与税・相続税が対象になります。
ただし、この制度はメリットだけでなく長期間の制約やルール違反時のリスクが非常に大きく、「使わないほうが良い」ケースが多い制度でもあります。
一般措置と特例措置の違い(100%猶予/上限撤廃/後継者最大3人 等)
制度には以下の2種類があります。
・一般措置(恒久)
・特例措置(期間限定・優遇が大きい)
特例では、
・贈与税・相続税 100%猶予
・株式上限撤廃(全株対象)
後継者3人までOKなど、大幅に緩和されています。
しかし実務では、要件維持の負担が非常に重く、取り消し時のダメージも甚大なため、慎重な判断が求められます。特に、特例措置は2026年3月31日の「計画提出期限」があるため、拙速な判断で制度利用を決めてしまう危険性があります。
一般措置と特例措置の比較表
| 項目 | 一般措置 | 特例措置 |
|---|---|---|
| 猶予割合 | 贈与税・相続税の80% | 100%猶予(ただし取消時は全額納付) |
| 対象株式 | 発行済株式の3分の2まで | 上限なし(=取り消し時のダメージ最大化) |
| 後継者数 | 1人のみ | 最大3人まで承継可 |
| 雇用確保要件 | 原則5年間で80%維持 | 実質緩和(未達でも継続可) |
| 制度期限 | 恒久 | 2026年3月31日(特例承継計画提出期限) |
※税金がゼロになるように見えますが、
「納税を先送りしているだけ」で、要件を外した瞬間に全額一括納付が必要になるのが最大の注意点です。
対象企業(中小企業者の定義)と対象外(資産管理会社等)
中小企業基本法で定める「中小企業者」が対象ですが、以下の企業は 対象外・認定が下りにくいため注意が必要です。
・資産管理会社
・不動産賃貸専業法人
・実質的な事業がない会社
・ホールディングス化している企業
制度は「本業を営む企業の承継」を想定しているため、実態審査は厳しく、グレーな場合は利用しない方が安全です。
2025年改正のポイント

2025年1月1日から、制度は大幅に緩和されました。
・役員要件緩和(3年→贈与直前でOK)
・個人版の従事要件の緩和
・雇用確保要件の実質緩和
国は利用促進を進めていますが、制度が複雑で“長期間の縛り”がある点は変わっていません。多くの中小企業では、「緩和されてもリスクが大きく、制度を使う必要性は高くない」という点を覚えておいてください。
事業承継税制や事業承継に関する、ご相談がございましたら、お気軽にご相談ください。
お問い合わせはこちら期限とスケジュール

事業承継税制は、期限管理が非常に厳しく、1つの遅れで適用不可となるリスクが大きい制度です。
特例承継計画の提出期限:2026年3月31日(延長後)
この日までに計画書を都道府県へ提出しなければ、特例(100%猶予)は一切使えません。
ただしこの期限に合わせて急ぐと、
・計画の精度が低い
・株価評価が雑になる
・役員体制が未整理
・税制ありきの承継になってしまう
などの“逆効果の承継”になりやすく、MGSとしては急いで利用を決める必要はないと考えています。
贈与・相続の対象期限:2027年12月31日(法人版)
この日を超えると特例の適用不可になります。承継には「株価評価」「議決権の整理」「金融機関との調整」など数か月〜1年以上かかるため、期限ギリギリは危険です。
こうした期限プレッシャーこそ、事業承継税制を積極的に“使わない判断”が合理的といえる理由です。
適用要件の全体像【会社・先代・後継者・株式】

制度が複雑で、ひとつ要件を満たせなくなるだけで、猶予が取り消され「全額一括納付」になるため、慎重な運用が必要です。
しかし逆にいうと、ここまで要件が厳しい制度を無理に使う必要はないというのが専門家としての結論です。
会社要件
・中小企業者であること
・株式の過半数を同族で保有
・資産管理会社・不動産賃貸専業は対象外
→ 事業実態の判定が厳格で、グレーな企業は使わない方が安全。
先代経営者要件
・承継時点で代表者
・議決権の過半数を保有(筆頭株主)
・承継後は代表から退任
→ 形式だけの退任は認められず、実態審査あり。
後継者要件
・贈与直前に役員であること(2025年改正で緩和)
・承継後に議決権の過半数を保有
・代表取締役へ就任
・特例では最大3人まで承継可能
→ 後継者の複数体制は、内部トラブルの原因になりやすいため非推奨。
承継株式の要件
・非上場株式
・特例では全株式が対象
・100%猶予(ただし取り消し時は全額納付)
→ メリットが大きいほど、取り消しリスクのダメージも大きい。
事業承継に関する、お困りごと・ご相談ごとがございましたら、お気軽にMGS税理士事務所までご相談くださいませ。
お問い合わせはこちら手続きの流れと必要書類

手続きは以下の4ステップがメインとなりますが、専門家でも数十ページの書類作成が必要なレベルとなっています。
確認申請(特例承継計画)
・事業内容・後継者情報・雇用計画などを記載
・認定支援機関(税理士等)の指導を受ける
・都道府県に提出(2026/3/31まで)
→ 計画内容が曖昧だと認定後の運用負担が増大。
認定申請→税務申告(担保提供・添付書類・期限)
・承継(贈与・相続)後に
・経産省の認定
・税務署への申告
・担保の提供(株式や不動産)
が必要となります。
→ 担保設定は企業経営の自由度を大幅に下げるため、推奨しません。
年次報告・継続届出(前5年は年1回、以降3年に1回)
報告内容例:
・株式保有状況
・代表者の状況
・雇用人数
・事業継続状況
→ 報告漏れ=猶予取り消し(全額納付)という非常に厳しい制度。
認定支援機関の選定ポイント
支援機関の力量によって手続きの難易度は変わりますが、そもそも 制度自体の運用負担が重いため、利用しない選択肢が合理的な企業も多いです。
メリットとデメリット【導入判断の要点について】

事業承継税制には、たしかに「税負担を軽減できる」というメリットがあります。
メリット
・贈与税・相続税を最大100%猶予できる
・株式取得のための資金準備が不要
・金融機関との関係が深まり、承継後の支援が受けやすくなる場合もある
・後継者が株式を一度に取得でき、経営権が安定しやすい
デメリット
しかし、これらのメリットを大きく上回るデメリットがあるため、MGS税理士事務所としては「基本的に使う必要はない」と考えています。
① 要件維持が非常に厳しい(1つ崩れるだけで即・全額納付)
猶予中に以下を満たせなくなると、猶予された税額を一括で納付しなければなりません。
・後継者が代表を辞任
・株式を第三者に譲渡
・議決権が過半数を割る
・雇用人数が減る
・報告書を期限内に提出できない
→ 10年・20年にわたり要件を守り続けるのは、現実的には非常に困難です。
② 担保提供で会社の自由度が下がる
猶予を受けるためには、株式や不動産を担保提供する必要があります。
これにより、
・借入
・M&A
・持株会社化
・組織再編
などが実質不可能になるケースも。
→ 長期的に経営の自由度を奪う制度です。
③ 年次報告(5年連続→以降3年に1回)の負担が重い
書類提出を忘れた、添付が不足した、形式不備。こうした“よくあるミス”でも、猶予取り消しの対象になります。
→ 税理士事務所の立場としても、「ミスしたら即アウト」の制度は推奨できません。
④ “税金ゼロ”ではない(猶予=先送りでしかない)
よく誤解されますが、「税金がなくなる」のではなく、“納税が先送り”されているだけです。猶予中に会社の状況が変われば、猶予された税額+利子税を一括で納付する必要があります。
→ 多くの中小企業では、このリスクを取りにいくべき制度ではありません。
取り消し・免除の要件(※取消しの方が圧倒的に多い)

事業承継税制は、猶予を受けている期間中に定められた要件を満たさなくなった瞬間、猶予されていた贈与税・相続税が全額一括で納付となり、さらに利子税まで追加される極めて厳しい制度です。
代表者の辞任や株式の第三者への譲渡、議決権割合の変動、雇用人数の減少、年次報告書の提出漏れといった、企業経営において十分に起こり得る変化がそのまま「猶予取り消し」の対象となります。
さらに、担保として差し入れた株式や不動産が差し押さえられる可能性もあり、企業へのダメージは非常に大きいものとなります。
一方、税金が正式に免除されるケースも存在しますが、その多くは後継者の死亡や会社の倒産など、通常の経営を前提とすれば決して望ましいとは言えない状況に限られています。つまり、事業が順調に続いている限り、免除が適用される可能性はほぼありません。
以上のように、取り消し時のリスクが極めて大きい一方で、免除が自然に適用される状況はほとんど存在しません。これらを総合的に考えると、制度に依存しない承継計画の方が、安全性・現実性ともに高いと言えます。
まとめ
事業承継税制は大きな節税効果がある一方で、厳しい要件を長期間維持し続ける必要があり、ひとつ条件を外しただけで猶予税額の一括納付や利子税の負担が発生するなど、取り消し時のダメージが非常に大きい制度です。
取り消しの原因には、代表者の変更や雇用の変動、株式の移動、報告漏れなど、日常的に起こり得る事項が多く含まれています。
一方で、税金が免除されるのは後継者の死亡や会社の倒産といった望ましくない状況に限られ、通常の経営を続ける企業にとって免除はほとんど期待できません。
こうしたリスクとメリットのバランスを考えると、多くの企業では制度を無理に使う必要性は高くなく、税制に依存しない承継計画の方が安全で現実的だと言えます。
MGS税理士法人は、後継者選定・税務対策・株式承継・法務手続きまで一括支援。
独自の「10ヵ年カレンダー」で長期的・計画的な事業承継を実現。専門家連携で税務・法務を包括支援し、M&Aや株式移転も対応しています。
事業承継の実務ノウハウは、書籍でも公開しています。
事業承継に関する、ご相談はMGS税理士事務所まで、お気軽にお問い合わせください。
