親族承継・従業員承継・第三者承継(M&A)ごとに、契約書の構成・必須条項・作成手順・税務リスク対策をわかりやすく整理します。
株式譲渡・事業譲渡・組織再編などのスキーム別にポイントをまとめ、3〜6か月で実務化するロードマップもご紹介いたします。契約書作成で陥りやすい落とし穴や、専門家が入るメリットついても触れていきます。
この記事を読めば、事業承継契約書の設計と注意点が明確に理解できますようになりますので、是非ご参考にしてください。
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この記事の目次
なぜ「事業承継契約書」の品質が成果を左右するのか

事業承継において、契約書は“承継の設計図”です。どれほど優れたM&A戦略や後継者候補がいても、契約書の内容が曖昧なまま進めてしまうと、クロージング後のトラブルや価格調整、想定外のリスクが発生する可能性があります。
特に、対象範囲・対価・表明保証(真実性の約束)・前提条件(Condition Precedent:契約実行の条件)・競業避止義務・補償条項といった要素は、事業承継契約書の「中核部分」です。
これらを明確に定義し、適切なバランスで取り決めることが、買い手・売り手双方の利益を守り、スムーズな承継を実現するための鍵となります。
契約書の設計段階での検討不足は、後の数千万円単位の損失に直結しかねません。したがって、事業承継契約書の作成においては、法務・税務・財務の専門知識を統合し、早期に準備を進めることが不可欠となってきます。
事業承継で使う主な契約スキーム

3つの代表スキームの違い
事業承継では、承継の目的や後継者の状況、会社の規模や資本構成によって選択すべき契約スキームが異なります。
主な方法は「株式譲渡」「事業譲渡」「組織再編(合併・会社分割・株式交換など)」の3種類であり、それぞれに法的性質・手続・税務処理の違いがあります。
株式譲渡:会社の支配権を株式で移転
株式譲渡とは、現経営者(株主)が保有する株式を買い手に譲渡し、会社の支配権を直接移転する方法です。法人格自体は変わらないため、契約関係や従業員、許認可なども基本的にそのまま引き継がれます。
このスキームは手続きが比較的シンプルで実務上もっとも利用頻度が高いとされています。
一方で、譲渡価格の算定や表明保証条項の設計を誤ると、簿外債務・偶発債務が後から発覚するリスクがあります。したがって、株式譲渡契約書では対象株式の特定・譲渡対価・表明保証・補償範囲を明確に定めることが重要となってきます。
事業譲渡:資産・負債・契約を個別特定して移転
事業譲渡は、会社全体ではなく、特定の事業・資産・負債・契約などを選択的に移転する方法です。譲渡対象を個別に特定する必要があるため、資産リスト・契約一覧・従業員承継リストなどを正確に整理することが求められます。
この「対象特定の精度」が、後のトラブル防止やスムーズな引継ぎを左右します。
事業譲渡では譲渡対象の範囲を曖昧にすると、「引き継がれると思っていた契約が移転できなかった」「想定外の負債が残った」といった事例が多発します。
また、譲渡時に発生する消費税・登録免許税・従業員の同意取得など、個別対応が必要な点も特徴です。
組織再編(合併・会社分割・株式交換等):会社法の法定記載事項に沿う契約・計画が必須
組織再編とは、会社法に基づいて会社の構造そのものを再編するスキームで、合併・会社分割・株式交換・株式移転などが含まれます。
これらは「法定記載事項」に沿った契約書・計画書を作成し、取締役会・株主総会での承認・公告・登記など、厳格な手続きを踏む必要があります。
組織再編を選択する場合、単なる事業承継にとどまらず、「グループ再編」「持株会社化」「事業分社化」などの経営戦略上の目的を持つケースが多いとされています。
税務上も、適格組織再編(課税繰延)かどうかで処理が大きく変わるため、専門家による設計が欠かせません。
これら3つのスキームは、いずれも「事業を次世代へ引き継ぐ」ことを目的としていますが、法的リスク・税務処理・コスト・スピードの観点で最適解は異なります。
したがって、事業承継を検討する際は、まず自社の財務状況・承継目的・後継者候補を整理し、どのスキームが最も合理的かを専門家と共に検討することが成功の第一歩です。
B. 事業譲渡契約書(Asset Purchase)

定義と位置づけ
事業譲渡契約書(Asset Purchase Agreement)とは、会社の一部また、全部の事業(資産・負債・契約・知的財産・顧客関係など)を選択的に移転する契約を指します。
この手法は「不要事業の切り離し」や「特定部門のみの承継」に有効で、近年中小企業でも活用が進んでいます。
キー条項の立て方
対象の特定:資産・負債・契約・知財などをリスト化(台帳・明細添付)し、範囲を明確にすることが最重要です。
支払い条件:一括・分割払いに加え、業績連動型のアーンアウト条項や、一定期間資金を留保するエスクロー方式の有無を検討します。
従業員承継:雇用条件・退職金・同意取得の方法を事前に定め、労働契約法や個人情報保護法への対応を整備します。
MGS税理士事務所では、事業譲渡に関するご相談を承っております。「どの範囲を譲渡すべきか」「税務上の最適設計は?」といったご相談も承っておりますので、お気軽にご相談くださいませ。
お問い合わせはこちらC. 組織再編の契約・計画(合併/会社分割/株式交換 等)

位置づけ
組織再編とは、会社法に基づき、合併・会社分割・株式交換・株式移転などの法的手続きを経て、企業構造を再編する方法です。
事業承継では、「法定記載事項」を満たす契約・計画書の作成が必須であり、要件を欠くと契約自体が無効となるリスクがあります。
代表例と記載事項
・合併契約書
→ 当事者・対価・効力発生日・資本金・新会社の商号などを明記が必要。
・吸収分割契約書
→ 当事者・対価・効力発生日・承継する権利義務の明細を詳細に記載が必要。
・株式交換契約書
→ 割当比率・算定方法・新株予約権・株主への通知方法などを規定。
これらはいずれも、会社法第748条〜第804条の「法定記載事項」に基づいて作成される必要があります。
スケジュールと登記
組織再編は、法的効力を生じるまでに時間を要します。
・取締役会・株主総会での承認
・公告・債権者保護手続き
・契約の締結・効力発生日の設定
・登記申請・公示
効力発生日を誤ると登記上の不整合が生じるため、スケジュール管理が極めて重要です。また、適格組織再編(課税繰延)を適用するには、税法上の細かい要件確認も必要となります。
組織再編スキームは「再生」「承継」「再構築」を同時に実現できる強力な手段ですが、一方で手続き・書類・税務対応が極めて複雑です。
早期に税理士・弁護士・司法書士が連携する体制を構築することで、スムーズでリスクのない事業承継が可能になりますので、まずは信頼できる先に相談することが第一歩となります。
契約書づくりの実務フロー

事業承継契約書の作成は、単なる書面作成ではなく、「準備」から「実行・定着」までの一連のプロセス管理が重要です。ここでは、実務上の5つのフェーズを簡潔に整理していきます。
フェーズ1:準備
まずは現状診断(株主構成・資産・契約関係の整理)を行い、承継の目的や最適スキームを明確にしていきます。その上で秘密保持契約(NDA)の締結→資料開示→デューデリジェンス(DD)を通じて、リスクと論点を洗い出します。
フェーズ2:ドラフト
雛形をベースにしつつ、対象範囲・譲渡対価・前提条件(CP)・表明保証・補償条項を自社に合わせて具体化します。同時に、社内での承認プロセス(決裁・取締役会など)を確認します。
フェーズ3:ネゴと署名
当事者間で契約内容を最終調整します。特に、表明保証の範囲・損害賠償の上限・競業避止義務の期間や地域は慎重にすり合わせます。合意後は正式に署名・押印を行います。
フェーズ4:実行・クロージング
契約実行時には、前提条件(CP)の充足確認・資金決済・株主名簿書換・登記手続などを確実に進めます。完了後は、取引先・従業員・金融機関へのアナウンスも忘れずに行いましょう。
フェーズ5:ポストクロージング
契約締結後も、補償請求期間の管理・PMI(統合作業)・役員構成や社内規程の更新を行います。また、承継計画書を更新し、次世代への引き継ぎや経営体制の安定を確認します。
契約書づくりは、会社の“未来を守るプロジェクト”です。雛形の流用だけでなく、自社の実態に即した設計・手続きが不可欠です。
MGS税理士事務所では、契約書ドラフトから実行・税務対応・PMI支援まで、事業承継の全プロセスをワンストップでサポートしています。
貴社の現状に合った最適な進め方をご提案しますので、お気軽にご相談ください。
お問い合わせはこちら条項別、落とし穴と改善ポイント
実務フローについてご紹介してきましたが、事業承継契約書の中で、特に注意すべき「表明保証・前提条件・競業避止・補償・対象特定」の5項目があります。
・表明保証
範囲を広げすぎると売り手のリスク、狭すぎると買い手の保護不足になります。「知る限り」「重要性基準」などの限定や保険活用でバランスを最適化しましょう。
・前提条件(CP)
許認可・担保解除・第三者同意などを明確化し、満たされない場合は契約発効しない仕組みでトラブル防止しましょう。
・競業避止条項
期間・地域・行為を合理的に設定し、独禁法等への抵触を回避。違約金・差止めの規定も整備しましょう。
・補償・損害賠償
上限(譲渡価額等)・期間(12〜24か月)・免責額を設計し、重大違反のみ上限撤廃などでリスク分担を明確化しましょう。
・事業譲渡の対象特定
資産・負債・契約のリスト不備は紛争リスクにつながります。一覧表や明細を添付し、曖昧表現を避けることが実務の基本。
事業承継計画書との連携
事業承継は、契約書と同時に「事業承継計画書」を作成すると全体像が把握しやすくなります。これは社内文書ではなく、経営者・後継者・金融機関・専門家が共通認識を持つための実務ツールです。
中小企業庁は「現状把握 → 承継方針 → 実行計画 → 実施・モニタリング」の4段階を推奨しています。計画書には、後継者情報・承継スケジュール・資金計画・税制活用などを記載し、契約内容と整合させることが重要となっています。
契約書の質が、事業承継の成否を分ける
事業承継は、単に会社を引き継ぐ行為ではなく、企業の信頼・資産・人材を次の時代につなぐ、経営プロジェクトです。その中心にあるのが、今回取り上げた事業承継契約書。
契約書の設計次第で、後継者や取引先との関係性、税務リスク、将来の経営の安定性までが左右されます。株式譲渡・事業譲渡・組織再編といった各スキームには、それぞれの利点と注意点があります。
また、契約書のなかでも特に、表明保証・前提条件・競業避止・補償・対象特定といった条項は、慎重な設計が欠かせません。さらに、事業承継計画書との整合性を取りながら、税務・資金・手続きの全体像を明文化することで、リスクを最小化できます。
契約書づくりを雛形任せにするのではなく、自社の状況・目的・スケジュールに合わせてカスタマイズすることが、成功の第一歩です。そして、その過程を支えるのが、税理士や弁護士といった専門家との連携です。
MGS税理士事務所では、事業承継に関する相談まで、ワンストップでサポートしています。
「まだ具体的な後継者が決まっていない」「スキームを比較検討したい」という段階でも構いません。
まずは無料相談から、貴社の現状に合った最適な承継プランをご提案いたします。法人の未来を見据えた事業承継を、今から一緒に準備していきましょう。
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事業承継に関する、ご相談はMGS税理士事務所まで、お気軽にお問い合わせください。
